先に結論
- 加工原理:放電加工
- 寸法精度(目安):±0.003mm
- 対応素材:導電体全般
この記事を書いている会社
有限会社アルプス(東京都荒川区)は、1993年に自動車用の特殊工具の設計・開発から始まった機械工具の商社です。金属加工品の製作も手がけています。
- この記事の立場
- お客様の図面を預かり、協力工場で加工品を製作する側から書いています。
- 加工
- 国内(新潟三条が中心)と中国・上海の協力工場が受け持ちます。
- 窓口
- 加工方法のご相談から出荷まで、当社ひとつです。
ワイヤーカット放電加工の仕組み
- ワイヤー電極(真鍮線 0.1〜0.3mm)
- 被削材(ワーク):SKD11・ハイス・超硬 など
- 純水(加工液)
- 放電火花/加工溝(カーフ)/送り方向
- ① 高電圧パルス印加 ② 放電→素材溶融・蒸発 ③ 純水が加工くずを除去
ワイヤーカット放電加工とは
ワイヤーカット放電加工(Wire EDM / ワイヤーEDM)とは、直径0.1〜0.3mmの極細ワイヤー電極(主に真鍮)と被削材のあいだに高電圧パルス放電を連続発生させ、その放電エネルギーで素材を溶融・蒸発させながら切断する加工法です。
加工はすべて純水(脱イオン水)の中で行われます。純水は絶縁性を保ちながら、発生した加工くず(スラッジ)を洗い流す役割も担っています。ワイヤーは常に新しい部分が繰り出され、電極の消耗によって精度が落ちる心配がありません。
1. 高電圧パルス印加
ワイヤー電極とワーク間に数十〜数百ボルトのパルス電圧をかけると、純水中のわずかな導電路で放電が起きます。
2. 放電による素材の溶融・蒸発
放電点の温度は瞬間的に8,000〜12,000℃に達し、素材表面が局所的に溶融・蒸発します。このサイクルを毎秒数万〜数十万回繰り返します。
3. 純水によるスラッジ除去
溶融した微粒子(スラッジ)を純水の流れが洗い流し、次の放電に備えます。同時に加工熱を冷却するため、熱変形が非常に少なく抑えられます。
4. XY送りによる輪郭切断
CNCテーブルがX・Y軸方向にプログラムどおりに動き、任意の2D輪郭を切り抜きます。傾きを与えるU・V軸を使えばテーパー加工も可能です。
ワイヤーカットの精度と仕様
ワイヤーカットが選ばれる最大の理由は他の切削加工では到達しにくい高精度です。機械的な切削力がまったく働かないため、焼き入れ後の硬い素材でも変形なく加工できます。
±0.003〜0.005mm
高精度機では ±0.001〜0.002mm も
Ra 0.2〜0.8μm
鏡面仕上げ品は Ra 0.1μm 以下も可
0.1〜0.3mm
細径ワイヤーで隅Rを小さく
〜300mm以上
分厚い金型材も1パスで
隅R(コーナーR)について
ワイヤー径が0.2mmであれば最小の内側隅Rは約0.1mm+放電ギャップ分。角を「直角」にしたい場合は0.1mm径の細径ワイヤーを使います。外側の角は鋭角に加工可能です。
加工できる素材・できない素材
ワイヤーカットは電気を通す素材(導電体)であれば硬さを問わず加工可能です。切削工具が切り込めない超硬合金や焼き入れ鋼が得意領域です。
一般鋼材
SS400 / S45C / SCM
焼き入れ後の鋼(HRC60超)
SKD11 / SKH51
NAK80 / SUS304
難削・高硬度材
超硬合金(WC-Co)
焼結金属
ダイス鋼(DC53 等)
高速度鋼
非鉄・特殊金属
アルミ・銅・真鍮
チタン合金
インコネル
モリブデン
加工できないもの
セラミックス・ガラス・樹脂など電気を通さない素材(絶縁体)は加工不可です。また、アルミなど軟材は加工できますが、薄板(0.5mm未満)は変形・ワーク落下のリスクがあり、治具設計が重要になります。
他の加工法との比較
| 項目 | ワイヤーカット | フライス加工 | レーザー加工 | 型彫り放電加工 |
|---|---|---|---|---|
| 加工原理 | 電気放電(ワイヤー) | 切削(回転工具) | 光熱融解・蒸発 | 電気放電(電極型) |
| 寸法精度 | ◎ ±0.003mm | ○ ±0.01〜0.05 | △ ±0.05〜0.1 | ◎ ±0.003mm |
| 高硬度材対応 | ◎ HRC60超でも可 | ✕ HRC50超は困難 | ○ 板材は対応可 | ◎ 対応可 |
| 内側形状 | ◎ 完全貫通なら任意形状 | ○ ポケット加工で対応 | ○ 切り抜き可 | ◎ 袋穴・深穴も可 |
| バリ・切削力 | ◎ 切削力なし・バリなし | ✕ バリ・切削力あり | △ 熱影響層・ドロスあり | ◎ 切削力なし |
| 3D形状対応 | △ 基本2D輪郭(テーパー可) | ◎ 自由曲面対応 | ○ 板材の2.5D | ◎ 電極形状を転写 |
| 加工速度 | △ 遅い(10〜100mm²/min) | ◎ 速い | ◎ 板材は速い | ✕ 遅い |
| 電極費用 | ○ ワイヤー(量り売り) | ○ 汎用エンドミル | — | ✕ 都度電極製作 |
ワイヤーカットが活躍する用途
プレス金型・抜き型
パンチ・ダイの輪郭を高精度に仕上げ。焼き入れ後に加工できるため、熱処理変形を最終形状で修正できる。
治具・ゲージ類
公差ゼロに近い位置決め穴・スロットが必要な治具に最適。切削力がないため、薄肉でも変形しない。
精密部品の試作
専用工具不要でCADデータからそのまま加工可能。小ロット・試作にも柔軟に対応できる。
医療・航空部品
チタン・インコネルなど難削材を高精度に加工。切削熱・バリなしで清潔な仕上げ面が得られる。
超硬工具・刃具の切断
フライス・バイト・チップの外形や溝を整形。超硬合金でも工具を選ばず一定精度で加工できる。
焼き入れ済み部品の微調整
熱処理後に寸法が狂った精密部品の追加工に。切削力がないため変形リスクがなく安心して使える。
ワイヤーカットを選ぶ判断基準
ワイヤーカットが向いているケース
・焼き入れ後(HRC50超)の高硬度材を加工したい
・±0.01mm以下の高精度が必要
・内側に複雑な輪郭(鋭角・小Rコーナー)がある
・切削工具が届かない貫通形状
・切削力による変形・バリを避けたい薄肉・脆性材
・専用電極を作らずに済ませたい(型彫りEDM比)
他の加工法の方が適しているケース
・3D自由曲面・ポケット形状が必要(→マシニング)
・大量・高速で薄板を抜きたい(→レーザー・プレス)
・電気を通さない素材(セラミック・樹脂 等)
・加工時間よりスピードを優先したい大物部品
・貫通していない袋穴・彫り込み形状(→型彫り放電)
よくある疑問と注意点
Q熱影響層(変質層)は残るの?
A放電加工では加工面に数μm〜十数μmの再凝固層(白層)が生じます。この層はもろく、残留応力を持つため、高精度・高疲労強度が求められる部品では仕上げ放電条件を細かくするか、必要に応じて研削で除去します。近年の高精度機では変質層を2〜5μm以下に抑えられます。
Qサビは大丈夫?
A純水中で加工するため、鉄鋼材料は加工中・加工後にサビが発生しやすいです。加工後は速やかに防錆処理(防錆油の塗布や三価クロメートなど)を施すことが重要です。
Q加工時間の目安は?
Aワイヤーカットは他の加工法と比べて加工速度が遅いのが特徴です。おおよその目安は板厚50mmの鋼で荒加工10〜30mm²/min程度。複雑形状・仕上げ加工では時間がかかるため、コスト見積もりには加工面積(板厚×輪郭長さ)と仕上げ回数を正確に伝えることが重要です。
Q「型彫り放電加工」と何が違う?
A型彫り放電加工(彫り込みEDM)は電極(銅・グラファイト製)をワーク表面に押し込んで形状を転写する工法で、袋穴・深彫り・ロゴなど貫通しない形状が得意です。一方ワイヤーカットは2D輪郭の貫通切断に特化しており、電極製作が不要なぶん小ロット・試作に向いています。
まとめ
要点
- ワイヤーカット放電加工は極細ワイヤーの放電エネルギーで素材を切断する加工法
- 切削力ゼロ・バリなしで、焼き入れ鋼(HRC60超)や超硬合金も高精度に加工可能
- 寸法精度は標準±0.003〜0.005mm。内側の鋭角・複雑輪郭も得意
- 加工速度は遅め。3D自由曲面・袋穴は苦手(→型彫りEDM・マシニングを検討)
- プレス金型・治具・試作精密部品・超硬工具加工で広く使われる
本コラムは情報提供を目的としており、加工条件・仕様は素材・設備・加工業者により異なります。
有限会社アルプスでは、ワイヤーカット加工品の調達・見積もり対応が可能です。
材質・板厚・加工輪郭・精度公差・数量をご提示いただければ、最適なサプライヤーをご提案いたします。お気軽にご相談ください。



