先に結論
- SS400(汎用構造鋼):フレーム・板材・ブラケット
- S45C(機械構造用炭素鋼):シャフト・治具・一般機械部品
- SCM435(クロムモリブデン鋼):高強度ボルト・ギア・スタッドボルト
- SKD11(ダイス鋼(工具鋼)):プレス金型・抜き型・ゲージ
この記事を書いている会社
有限会社アルプス(東京都荒川区)は、1993年に自動車用の特殊工具の設計・開発から始まった機械工具の商社です。金属加工品の製作も手がけています。
- この記事の立場
- お客様の図面を預かり、協力工場で加工品を製作する側から書いています。
- 加工
- 国内(新潟三条が中心)と中国・上海の協力工場が受け持ちます。
- 窓口
- 材料のご相談から出荷まで、当社ひとつです。
材料選定で「とりあえずS45C」が起きる理由
機械設計の現場では、「S45Cを使っておけばとりあえず大丈夫」という判断がよく見られます。汎用性が高く、加工もしやすいS45Cは確かに優れた選択肢ですが、強度が足りずにトラブルになるケースと、オーバースペックでコストが膨らむケースの両方が起きています。
鋼材の選定は「材料の強度・硬さ・加工性・熱処理対応・コスト」の5軸で考えるのが基本です。このコラムでは代表的な4種類の鋼材を例に、どう使い分けるかを整理します。
代表4鋼材の特性と使いどころ
SS400
一般構造用圧延鋼材
引張強さ:400〜510 N/mm²(最低保証値400)
炭素含有量:規定なし(一般に0.25%以下)
熱処理:原則不可(焼き入れ効果なし)
溶接性:◎ 良好(最も溶接しやすい)
材料コスト:◎ 最安(入手性も最高)
主な形状:板材・Hビーム・アングル・チャンネル
使いどころ:フレーム・架台/ブラケット/カバー・板金/溶接構造物/強度が不要な部位
S45C
機械構造用炭素鋼
引張強さ:690〜850 N/mm²(焼き入れ焼き戻し後)
炭素含有量:0.42〜0.48%(中炭素鋼)
熱処理:○ 焼き入れ可(HRC55程度まで)
溶接性:△ 予熱が必要(割れリスクあり)
材料コスト:○ 安価(最も入手しやすい丸棒)
主な形状:丸棒・角棒・六角棒・板材
使いどころ:シャフト・軸類/治具・ゲージ/ピン・ボルト(低強度用)/一般機械部品/キー・スプライン
SCM435
クロムモリブデン鋼
引張強さ:930〜1130 N/mm²(焼き入れ焼き戻し後)
合金成分:Cr:0.9〜1.2% Mo:0.15〜0.30%
熱処理:◎ 焼き入れ性に優れる(大径材でも均一硬化)
溶接性:△ 予熱・後熱管理が必要
材料コスト:△ S45Cの約1.5〜2倍
主な形状:丸棒・六角棒(ボルト用)
使いどころ:高強度ボルト(12.9級相当)/ギア・スタッドボルト/クランクシャフト/高負荷シャフト/大径焼き入れ部品
SKD11
冷間ダイス鋼
硬さ(焼き入れ後):HRC58〜62(高硬度・高耐摩耗)
主な合金成分:C:1.4〜1.6% Cr:11〜13%
熱処理:◎ 空冷焼き入れ(変寸が少ない)
耐摩耗性:◎ 抜群(プレス・打ち抜きに最適)
材料コスト:✕ S45Cの5〜10倍
主な形状:板材・角棒・丸棒(金型用途が主)
使いどころ:プレス金型(パンチ・ダイ)/抜き型・切断型/ゲージ・測定工具/高耐摩耗治具/ワイヤーカット加工品
強度・硬さの比較
| 鋼材 | 引張強さ(N/mm²) | 硬さ |
|---|---|---|
| SS400 | 400 | - |
| S45C | 〜750 | - |
| SCM435 | 〜1030 | - |
| SKD11 | -(硬さで表記) | HRC60 |
代表4鋼材の引張強さと硬さ(焼き入れ焼き戻し後の代表値)
SKD11についての補足
SKD11は「引張強さ」より「硬さ(HRC)」で評価されます。工具鋼は靭性と耐摩耗性の設計ですので、SS400〜SCM435とは用途の次元が異なります。金型・ゲージ以外に使う必要はほとんどありません。
4鋼材の詳細比較表
| 比較項目 | SS400 | S45C | SCM435 | SKD11 |
|---|---|---|---|---|
| JIS規格 | G 3101 | G 4051 | G 4105 | G 4404 |
| 引張強さ(目安) | 400〜510 N/mm² | 690〜850 N/mm² | 930〜1130 N/mm² | 硬さで管理 HRC58〜62 |
| 焼き入れ対応 | ✕ 不可 | △ HRC55程度まで | ◎ 大径でも均一 | ◎ 空冷・変寸少 |
| 溶接性 | ◎ 最良 | △ 予熱必要 | △ 予熱・後熱必要 | ✕ 原則不可 |
| 切削加工性 | ◎ 容易 | ○ 良好 | △ やや難(工具選定) | ✕ 焼き入れ後は困難 |
| 耐摩耗性 | ✕ 低 | △ 中(表面硬化で改善) | ○ 中〜高 | ◎ 最高 |
| 靭性(割れにくさ) | ◎ 高 | ○ 高(調質後) | ◎ 高 | △ やや脆 |
| 材料コスト(丸棒φ50比較) | ◎ 最安 | ○ 安 | △ S45Cの1.5〜2倍 | ✕ S45Cの5〜10倍 |
| 水素脆化リスク(高強度時) | 低(強度低) | HRC≧40で要注意 | HRC≧40で高リスク | HRC60超で高リスク |
材料を選ぶ判断フロー
以下の3つの問いで、大半の部品の鋼材を絞り込めます。
QSTEP 1 その部品に強度・硬さが必要か?
ANo(強度不要・溶接構造・カバー・架台)→ SS400 で十分。最安・溶接性最良。
Yes(強度・硬さ・疲労強度が必要)→ STEP 2 へ
QSTEP 2 高強度(引張強さ 900 N/mm² 超 or HRC40超の焼き入れ)が必要か?
ANo(中程度の強度(シャフト・軸・治具等))→ S45C(調質材) が標準解。コスパ最良。
Yes(高負荷・高強度ボルト・大径部品)→ SCM435。水素脆化リスクに注意(脱水素処理)。
QSTEP 3 高耐摩耗性が必要か?(プレス金型・抜き型・精密ゲージ)
ANo(耐摩耗より靭性・コストを優先)→ SCM435 または S45C(焼き入れ)で対応。
Yes(金型・ゲージ・超高耐摩耗部品)→ SKD11(もしくはDC53・SKH51等)。ワイヤーカット加工前提。
設計現場でよくある選定ミス
① S45Cで高強度ボルトを作る
S45Cは焼き入れしてもHRC55程度が限界で、引張強さは850 N/mm²前後です。12.9級相当(引張強さ1220 N/mm²)のボルトはSCM435が必要です。S45Cで代用すると疲労破断の原因になります。
② SS400を強度部材に使う
SS400は「一般構造用」であり、強度規定の下限保証はありますが、成分(炭素量など)の規定がなく、同一ロット内でのばらつきも大きいです。精度・強度が求められる機械部品にはS45C以上を使うのが原則です。
③ SKD11を金型以外に流用する
SKD11は高価・加工困難・靭性が低く、強度部材への流用はコストと割れリスクを招きます。耐摩耗が必要な一般部品であれば、S45C+高周波焼き入れ+硬質クロムメッキの組み合わせで代替できるケースが多いです。
水素脆化に注意
SCM435やSKD11などHRC40超の高硬度材に電気亜鉛メッキ(ユニクロ・三価クロメート)を施す場合、メッキ後の脱水素処理(190〜230℃×8〜24時間)が必須です。処理を省略すると遅れ破壊(突然の脆性破断)が発生します。詳しくは当コラム「水素脆化とは?」を参照ください。
まとめ:鋼材選定の基本ルール
要点
- 強度不要・溶接・カバー類 → SS400(最安・溶接性◎)
- 一般機械部品・シャフト・治具 → S45C(汎用性・コスパ最良)
- 高強度ボルト・高負荷軸・大径部品 → SCM435(水素脆化対策必須)
- プレス金型・抜き型・精密ゲージ → SKD11(コスト高・加工難だが耐摩耗◎)
- HRC40超の部品にメッキ処理する場合は必ず脱水素処理を
本コラムは情報提供を目的としており、実際の設計・選定は個別の使用条件に合わせて専門家にご相談ください。
有限会社アルプスでは、材質指定の段階からご相談を承ります。「S45CとSCM435のどちらを選ぶべきか」「表面処理との組み合わせ」など、加工業者・メッキ業者と連携した最適提案が可能です。お気軽にお問い合わせください。



