機械部品の設計・調達でよく問われる表面処理の選択。素材がSPCCやSS400(低炭素鋼)なら亜鉛メッキ+三価クロメートが定番ですが、S45CやSCM435のような中炭素鋼・合金鋼になると話が変わります。
前提
亜鉛メッキ(電気亜鉛メッキ)はどんな鋼材にも施せますが、S45C・SCM435・SKD11などの高硬度鋼に適用する場合は水素脆化(水素脆性)のリスクがあります。これが選択を難しくする主因です。
先に結論
- 材質・用途で使い分ける。
- 三価クロメート(亜鉛メッキ):防錆を最優先にするなら
塩水・湿気・屋外環境など防錆性能が問われる部品に。ただし高硬度材(HRC40以上の目安)への適用は水素脆化リスクの管理が必要。
▸ SPCC・SS400・S20C など低炭素鋼に最適
▸ 高硬度材は脱水素処理(ベーキング)必須 - 黒染め(黒色酸化処理):高硬度材・精密部品・見た目を重視するなら
S45C・SCM435・SKD11・SKH51など熱処理済み高硬度材の定番処理。寸法変化がほぼゼロ、水素脆化のリスクなし。防錆力は油塗布前提。
▸ 熱処理済み高硬度材(HRC40以上)に最適
▸ 防錆は別途防錆油・グリスの塗布で補う
この記事を書いている会社
有限会社アルプス(東京都荒川区)は、1993年に自動車用の特殊工具の設計・開発から始まった機械工具の商社です。金属加工品の製作も手がけています。
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- お客様の図面を預かり、協力工場で加工品を製作する側から書いています。
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- 材料や表面処理のご相談から出荷まで、当社ひとつです。
三価クロメート・黒染め・無処理の比較表
| 比較項目 | 三価クロメート(電気亜鉛メッキ後) | 黒染め(黒色酸化処理) | 無処理(参考) |
|---|---|---|---|
| 皮膜の仕組み | 亜鉛メッキ(5〜15μm)+クロメート化成皮膜 | アルカリ水溶液で表面に四三酸化鉄(Fe₃O₄)を生成 | — |
| 皮膜厚 | 亜鉛:5〜15μm (寸法に影響あり) | 0.5〜3μm程度 (寸法変化ほぼなし) | — |
| 防錆性 | 高い 白錆72〜120h / 赤錆200h以上(SST) | 低い 素地+防錆油で数十〜数百h程度 | なし |
| 水素脆化リスク | あり 酸洗工程で水素が侵入。HRC40以上は脱水素処理必須 | ほぼなし アルカリ処理のため水素発生が少ない | なし |
| 寸法精度 | 要注意 メッキ厚(片面5〜15μm)分だけ外径が増える | 影響極小 皮膜厚が1〜3μm程度でほぼ無視できる | 影響なし |
| 適合材質 | SPCC・SS400・S20C など低〜中炭素鋼 高硬度材はベーキング管理が必要 | S45C・SCM435・SKD11・SKH51 熱処理済み鋼材全般に適用しやすい | 全材質 |
| 外観 | シルバー〜青白色(光沢) | 黒(艶消し〜半光沢) | 鋼材素地 |
| RoHS対応 | 適合(三価クロメートの場合) | 適合(六価クロムを含まない) | 対象外 |
| コスト目安 | 小ロット:やや高め 量産:安価になりやすい | 三価クロメートより安価なことが多い | 最安 |
| 主な用途 | ボルト・板金部品・構造部品・電装ブラケット | シャフト・ギア・金型・工具・精密機械部品 | (内部部品・後処理前) |
水素脆化とは何か。高硬度材でのリスク
水素脆化(水素脆性)
電気亜鉛メッキの前処理(酸洗・電解脱脂)工程で、水素が鋼の内部に侵入します。高硬度材(特にHRC35以上)では、この水素が結晶粒界に集まり、通常の強度以下の応力で突然破断する現象が起きることがあります。ボルト・スタッド・ばね・金型部品での破損事例が多く報告されています。
メッキ+三価クロメートを使う場合の対処
脱水素処理(ベーキング)
メッキ後4時間以内に、190〜230℃で8〜24時間加熱。侵入した水素を鋼内部から外に逃がす。JIS H 8625・ISO 9587で規定。
ベーキングで完全には除去できないことも
硬度が高いほど脱水素処理の効果が下がる傾向。HRC40以上では、ベーキング後も慎重な強度評価が必要。
図面への明記
「電気亜鉛メッキ後ベーキング処理」と図面・仕様書に明記しないと、処理業者がベーキングを省略するリスクがある。
黒染めが高硬度材に選ばれる理由
アルカリ環境での処理
黒染めは強アルカリ(苛性ソーダ水溶液)で処理するため、酸洗のように水素が大量に発生しない。水素脆化のリスクが大幅に低い。
寸法変化ゼロに近い
皮膜厚は1〜3μm程度。精密なはめあい(h6/H7など)がある部品でも追加の機械加工なしに使える。
熱処理前でも後でも施工可能
焼き入れ・焼き戻し後の完成品に施工できる。S45C調質材・SCM435浸炭焼入れ材・SKD11焼入れ材すべてに対応。
材質・用途から処理を選ぶ判断フロー
設計時の判断の目安として、以下のフローを参考にしてください。
❶ 材質の硬度・熱処理状態は?
低〜中炭素鋼・HRC35未満
SPCC、SS400、S20C、S35Cなど。焼き入れなし、または浅い熱処理の場合。
→ 電気亜鉛メッキ+三価クロメート を選択しやすい。防錆性が高く、コストも安定。
高炭素鋼・合金鋼・HRC35以上
S45C(調質)、SCM435(浸炭焼入)、SKD11、SKH51など。
→ 黒染め を第一候補に。防錆は防錆油・グリスで補完。防錆が最優先ならベーキング管理付きでメッキも可。
❷ 寸法精度(はめあい)への要求は?
精度余裕あり(e8・f7以下など)
メッキ厚分(片面5〜15μm)を事前に狙い径で織り込めば、亜鉛メッキも適用可能。
高精度はめあい(h6・h5・H7 など)
黒染めの皮膜厚(1〜3μm)は寸法への影響が実用上ほぼゼロ。精密部品・ガイドピン・ノックピン等に向く。
❸ 使用環境(防錆の要求度)は?
屋外・多湿・塩水環境
防錆性能の高さが必要。亜鉛メッキ+三価クロメートを選択。高硬度材はベーキングを必ず指定。
屋内・グリスアップ・油中環境
黒染め+防錆油で十分なケースが多い。機械内部、金型、工具類など。
具体的な部品別の推奨処理
ボルト・ナット(SS400・SCM435 低トルク品)
SS400製の汎用ボルトや、締め付けトルクが低めのSCM435ボルト。防錆性を重視する場合。HRC35以上はベーキング必須。
板金ブラケット・カバー(SPCC・SS400)
低炭素鋼の板金部品。亜鉛メッキ+三価クロメートが標準。防錆性・コスト・RoHS対応をすべてカバー。
シャフト・ピン(S45C・SCM435 調質品)
焼き入れ・焼き戻し後のシャフト・ノックピン・ダウエルピン。寸法変化ゼロで精度を保てる黒染めが定番。
金型部品・工具鋼(SKD11・SKH51)
高硬度の金型パーツや切削工具。水素脆化リスクを避けるため黒染めが事実上の標準。防錆油で補完。
精密機械部品(h6以下のはめあい)
ガイドレール・摺動部・精密ジグ。メッキ厚による寸法変化を嫌う場合、黒染め(皮膜1〜3μm)一択になることが多い。
高強度ボルト(SCM435 HRC40以上)
防錆最優先ならメッキ+ベーキング(図面明記)。水素脆化リスク回避・精度重視なら黒染め。用途と管理体制で判断する。
まとめ
三価クロメート(亜鉛メッキ)を選ぶ
- 低炭素鋼(SPCC・SS400・S20C)が素材
- 防錆性能を最優先にしたい
- 屋外・多湿・塩水環境での使用
- 高硬度材でも:ベーキングを図面明記で管理
- RoHS・ELV対応が必要
黒染めを選ぶ
- S45C・SCM435・SKD11などの高硬度材
- 熱処理(焼き入れ・浸炭)後の完成品
- 精密はめあい(h6・H7など)がある部品
- 金型・工具・精密機械部品
- 水素脆化リスクを避けたい
有限会社アルプスでは、S45C・SCM435などの鋼材を用いた機械加工品の調達・表面処理手配のご相談を承っています。
図面支給品はもちろん、材質・処理の仕様決めの段階からご相談ください。



